岐阜、炎の祭典3
2014/04/23 [岐阜県各務原市]手力雄神社狂気だ。
日が暮れるにつれ男たちの様相が変化する。
爆音とけたたましい金属音が鳴り響く中、男たちは暴れ始める。
手力雄の御輿は、飾り御輿といい各町会が工夫を凝らし約2か月の期間をかけ製作する。
里の仲間の心が一つになった御輿が、夜の手力雄に向かっていく。
煙幕に包まれ、呼吸困難になりながら音の渦の中を進む。
出店には明かりが灯され、夜の祭りに繰り出す若者が目立ち始める。
御輿も荒れる。酒を食らった男たちはギャラリーの勢いを煽る。
境内が見えてくる、三の鳥居の前、大量の爆竹が点火された。
御輿の「吊り手」は叫び、走る。
参道。吊り手や半鐘の勢いは止まらない。
自身の街の御輿を中心に爆竹、火、煙、音、声が混ざりあう。
この後さらに待つ最高潮へ向け、吊り手は狂気を獲得する。
全ての町会の御輿がいったん収まると、各町会はさらに神輿に花火を装着する。
僕はこの時点で話しか聞いていないが、ワクワクは少しおののきに変わっていた。
幟が点火される。
幟から降り注ぐ火の粉と次々に点いていく行灯が美しく空を照らす。
暗闇の中の境内は炎によって彩られる。
行灯が次々に点けられる間、空間は静寂と激しさの間にあった。
約10ある行灯すべてに灯がともされると、会場からは拍手が沸き起こった。
クライマックスが近づく。
次の瞬間、さらに高く掲げられた高張から、烈火が噴出する。
火の瀧だ。
担ぎ手は体をはだけ、奮迅の怒号を上げる。
暗闇の中炎の瀧へ挑む神輿がいる。
無数の激しさの渦となった御輿は瀧の中へと突っ込んでいった。
担ぎ手は火を浴び、御輿に点けられた花火に引火する。
僕もその中にいた。
狂気だけが僕を救ってくれる。
体中に火の粉が纏わりつく。
声を上げ、体を精一杯弾ませることで、人は痛みや熱さを飛び越えてしまう。
300年以上続く手力雄の祭りの神髄を見た。
体はいつまでも火照っていた。
一瞬狂気に飲み込まれた僕は未だ火の瀧に挑む御輿を虚ろな目で見ていた。
これが、祭りだ。
手力雄の祭りは、これだけでは終わらない。
さらに「山焼き」と言って、舞台の上から前日各町会が数十本を製作した竹製の手筒花火を放つ。
その下では半鐘を持った若者たちがさらに狂い、狂い、声と音を上げる。
信じられないほどの火だ。
火は辺りにいる人間すべてに降り注ぐ。
これでもか、これでもか、と燃やされる猛火が、美しくも激しい手力雄の夜をまばゆく照らしていた。
炎が消えた後もいつまでも心の火は消えない。
目の前に文字通り焼き付けられた夢のような風景に、僕はまた最高級の感動と誇りを抱いていた。
終わり